自民党総裁選で問題となった「称賛コメント依頼」は違法なのか?

政治経済

2024年9月に行われた自民党総裁選において、ニコニコ動画での小泉進次郎氏と牧島かれん氏の「称賛コメント依頼」が問題となりました。

この事案は、インターネット上で第三者を装った称賛コメントを依頼するという、いわゆる「ステルスマーケティング(ステマ)」と類似した行為として注目を集めました。

しかし、政治活動におけるこうした行為は、商業分野でのステマとはどのような違いがあるのでしょうか。

景品表示法のステマ規制との関係や、政治倫理上の問題点について、法的観点から詳しく解説します。

景品表示法におけるステマ規制の対象範囲

まずはステマ規制について簡単にお伝えします。

ステマ規制は「商取引」が前提

2023年10月に施行された景品表示法の改正により、ステルスマーケティングが規制対象となりました。しかし、この規制には明確な対象範囲があります。

景品表示法(ステマ規制)は「商品やサービスの取引」に関する法律です。

具体的には、事業者が消費者に対して商品やサービスを販売する際に、「広告であることを隠して、消費者に誤認させることで売上を伸ばす」行為を規制しています。

この法律の目的は、消費者が適切な商品選択を行えるよう、広告の透明性を確保することにあります。

つまり、経済的な取引関係が存在することが大前提となっているのです。

政治活動は景品表示法の対象外

今回問題となった事例は、「商品やサービスの販売」ではなく、自民党総裁選という政治活動に関わるものです。
政治活動は商業活動とは性質が異なり、有権者(この場合は党員)の政治的判断に関わる情報発信活動です。

したがって、景品表示法のステマ規制には直接該当しません

仮に第三者を装った称賛コメントを依頼したとしても、商品やサービスの売買を目的としていない以上、景品表示法違反にはならないのが現状です。

他の法律でも規制は困難

民商法上の詐欺や不正競争防止法なども、基本的には商業活動を対象としており、政治活動に直接適用することは困難です。

このため、法律によるステマ規制の枠組みでは、政治分野の類似行為を取り締まることはできません。

次に公職選挙法の違反では?についても解説いたします?

公職選挙法と党内選挙の違い

公職選挙法の適用範囲

日本の選挙制度において、公職選挙法は国政選挙や地方選挙を対象に選挙運動のルールを規定しています。
この法律では、選挙運動の方法や費用、広告宣伝の規制などが詳細に定められており、違反した場合は刑事罰の対象となります。

公職選挙法では、選挙運動におけるインターネットの利用についても一定の規制があり、例えば電子メールによる選挙運動は候補者と政党等に限定されています。

自民党総裁選は党内選挙

しかし、「自民党総裁選」はあくまで党内選挙であり、公職選挙法の規制対象外です。

自民党総裁に選ばれることで内閣総理大臣に就任する可能性が高いとはいえ、法的には政党の代表者を決める内部手続きに過ぎません。

このため、公職選挙法で禁止されている行為であっても、総裁選では法的な問題にはならない場合があります

インターネットを利用した選挙運動についても、公職選挙法の制約を受けることはありません。

自民党独自の規程が適用

代わりに適用されるのが「総裁公選規程」という自民党独自のルールです。
この規程では以下のような条項が定められています。

  • 「清潔・明朗・公正を害する行為の禁止」
  • 「党の名誉を著しく損ねる行為の禁止」
  • 「品位を損なう行為の禁止」

よって、今回の「称賛コメントを依頼する行為」が問題になるとすれば、党規程違反として処理される可能性があります。

ただし、これは法的な処罰ではなく、党内の処分(戒告、党員資格停止など)にとどまります

政治版ステマの構造的問題

ステマとの構図的な類似

ニコニコ動画に「第三者の自然な声」を装って称賛コメントを投稿させることは、構造的にはステマと同じです。

視聴者は、そのコメントが自発的な支持表明だと認識する可能性が高く、実際には陣営からの依頼によるものであることを知らされていません。

この行為の問題点は以下の通りです。

  1. 情報の非対称性
    視聴者はコメントの真の発信源を知らない状態で情報を受け取る
  2. 世論操作の可能性
    人工的に作られた「支持の声」が、他の有権者の判断に影響を与える可能性
  3. 公正な政治プロセスの阻害
    有権者の自由な意思決定を妨げる要因となる

法規制の限界と倫理的問題

現在の法制度では、政治分野でのステマ類似行為を直接規制することは困難です。
しかし、だからといって倫理的に問題ないわけではありません。

民主主義の基盤は、有権者が十分な情報をもとに自由な判断を行うことにあります。
人工的に作られた「支持の声」によって世論が誘導される可能性がある行為は、民主的プロセスの健全性を損なう恐れがあります。

次に海外ではどういう風に対応しているのでしょうか?

海外での規制動向

海外(特に米国・欧州)では、政治における「ステマ的行為(見せかけの口コミや偽装した支持活動)」は、日本よりもかなり厳しく規制・監視されています。

🇺🇸 アメリカの場合

公選法(Federal Election Campaign Act)による規制

アメリカでは連邦選挙キャンペーン法により、政治広告において「誰が資金を出しているのか」の明示が義務とされています。
テレビCMやインターネット広告でも「Paid for by ○○ Campaign」といった表示が必ず必要で、これを隠して行うとFEC(連邦選挙委員会)違反となります。

ステルスマーケティング的行為への対応

候補者や政党が第三者を装って世論を操作することは違法または摘発対象とされています。
特にSNSでの偽アカウント動員(アストロターフィング)は深刻な問題として扱われており、2016年のロシアによる米大統領選干渉事件が代表例として知られています。

また、FTC(連邦取引委員会)も広告や宣伝において「出資者を隠すこと」を不当表示として取り締まる権限を持っています。

アメリカでの対応

「誰が金を出し、誰が発信しているのか」を徹底的に透明化するルールが確立されています。

🇪🇺 ヨーロッパ(EU加盟国)の場合

EU全体の動き

「デジタルサービス法(DSA)」が2024年に施行され、オンライン広告において「スポンサー明示」が必須となりました。
政治広告については資金源・スポンサー名・ターゲティング基準を利用者に開示することが義務づけられています。

各国の具体例

  • ドイツ:選挙広告には必ず発行者表示(Impressum)が必要で、匿名的な広告や偽装的な宣伝は禁止されています。
  • フランス:2018年に制定された「フェイクニュース法」により、選挙期間中の偽情報・匿名広告に司法が介入可能となっています。
  • イギリス:選挙広告には「誰が資金提供したのか」を必ず明記する「Imprint Rule」があり、SNS投稿も対象に含まれます。
EU連盟での対応

EU圏では「透明性の確保」と「偽装的な支持活動の禁止」が法的に強化されています。

🌍 海外の規制まとめ

  • アメリカ 
    → 公選法とFEC規制で「資金源と広告主を明示しなければ違法」。ステマ的行為は摘発対象
  • EU 
    → DSAや各国の選挙法で「スポンサー明示義務」「偽装的広告の禁止」を実施
  • 共通点 
    → 政治広告や宣伝は「誰が出資し、誰が発信しているか」を必ず示さなければならず、隠す行為は違法または制裁対象

日本との違い

日本は「商品広告のステマ規制(景品表示法)」は存在しますが、政治広告の透明性に関する規制はまだ弱いのが現状です。

海外では「政治でのステマ的行為」を法律で直接規制している国が多く、この点で大きな制度格差があると言えるでしょう。

日本でも将来的には、政治分野でのステマ類似行為に対する法的規制が検討される可能性があります。

政治倫理と世論の役割

政治倫理による判断

法的な規制が及ばない領域であっても、政治倫理の観点から問題視されることは十分にあります。政治家や政治団体は、法律に違反していなくても、有権者からの信頼を維持するため、より高い倫理観が求められます。

特に、情報の透明性や公正性は民主主義の根幹に関わる問題であり、たとえ法的な処罰がなくても、政治的責任を問われる可能性があります。

世論による制裁機能

現在の日本では、政治分野でのステマ類似行為に対する法的規制が存在しない以上、論からの批判が主要な制裁機能を果たすことになります。

メディアや市民による監視・批判により、政治家や政治団体がそうした行為を自主的に控える効果が期待されます。
また、選挙における有権者の判断にも影響を与える可能性があります。

透明性向上への期待

政治分野でも、広告主の明示や資金源の開示など、透明性を高める自主的な取り組みが求められています。

政党や政治家が自ら情報開示を進めることで、有権者の信頼を獲得し、民主的プロセスの健全性を保つことができます。

まとめ

今回の事例を法的観点から分析すると、以下の結論に至ります。

法的位置づけ
  • 景品表示法(ステマ規制)には該当しない
    商取引を対象とする法律であり、政治活動は対象外
  • 公職選挙法の規制も受けない
    党内選挙は公職選挙法の適用範囲外
  • 自民党の総裁公選規程違反の可能性
    「公正を害する行為」や「党の名誉を損ねる行為」に該当する可能性

という結果から法律に関して違法性はないという事ができます。

しかし、社会的影響は以下の3つの点から大きいものだと考えられます。

  • 法律的には商取引のステマ規制外だが、社会的には「政治版ステマ」として批判され得る
  • 民主的プロセスの健全性に対する懸念を生む
  • 政治倫理や透明性の観点から問題視される

現在の日本の法制度では、政治分野でのステマ類似行為を直接規制することは困難です。
しかし、民主主義の健全な発展のためには、政治家や政治団体が自主的に透明性を高め、有権者の信頼を獲得する努力が不可欠です。

法的規制の有無に関わらず、政治活動における情報発信の透明性と公正性は、民主社会の基盤として重要な価値であることを認識し、より良い政治文化の構築に向けた議論を続けていく必要があるでしょう。


本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律の専門家による執筆ではありません。
具体的な法的判断や詳細なアドバイスが必要な場合は、弁護士等の専門家にご相談ください。

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