2026年2月、イタリアの北部に位置するミラノとコルティナ・ダンペッツォを舞台に、冬季オリンピックの新たな歴史が刻まれます。数ある競技の中でも、今大会最大のトピックの一つが、新競技「山岳スキー(SKIMO:スキーモ)」の初採用です。
山岳スキーは、単なるウィンタースポーツの枠を超えた「究極のアルパイン・エンデュランス」です。雪山を滑り降りる技術はもちろんのこと、自らの脚で急斜面を駆け上がり、時にはスキー板を背負って岩場や氷の斜面を登り切る。その過酷さと美しさは、ヨーロッパのアルプス周辺諸国では古くから絶大な人気を誇り、アスリートとしての総合的な強さを証明する競技として親しまれてきました。
今回、五輪という世界最大の舞台に「SKIMO」が降臨することで、冬のスポーツ観戦の常識が変わろうとしています。伝統的なアルペンスキーのスピード感と、クロスカントリースキーの持久力、そして登山家の判断力。これらすべてが融合した「雪上のサバイバル・レース」がいよいよ始まります。
山岳スキー競技のルールと種目

山岳スキーとは、専用の軽量な道具を駆使し、設定された山岳コースを「登り」と「下り」の両方で攻略し、その合計タイムを競う競技です。2026年ミラノ・コルティナ大会では、観客が最も熱狂しやすく、テレビ映えもするエキサイティングな2種目が実施されます。
実施種目:スプリントと混合リレー
- スプリント(男子・女子)
標高差約70m、距離にして数百メートルの短いコースを約3分間で駆け抜ける、文字通りの超高速バトルです。コース内には「シール登行」「担ぎ(ブーツでの登り)」「ダウンヒル(滑走)」のすべての要素が詰め込まれています。予選はタイムトライアル形式で行われ、準々決勝以降は複数人が同時にスタートするノックアウト方式。一瞬のミスが命取りになる、SKIMOの中で最もスリリングな種目です。 - 混合リレー
- 男女各1名のペアでチームを組み、交互にコースを回るタスキリレーです。個人の能力だけでなく、交代時のスムーズさや戦略的なペース配分が重要となります。
競技の核心「シール」と「トランジション」
山岳スキーを象徴するのが「シール(スキン)」と呼ばれる道具です。 スキーの裏面に貼り付ける滑り止め(かつてはアザラシの皮を使っていたためシールと呼ばれます)により、急斜面をスキーを履いたまま逆行せずに登ることができます。
そして、この競技最大の戦術的見どころが「トランジション(切り替え)」です。
- 登り切った瞬間にシールを剥がしてザックにしまう。
- スキー板をザックに固定して走る。
- 滑走モードにビンディングを切り替える。 これらの作業を、選手たちは心拍数が200近くに達する極限状態の中で、わずか数秒で行います。この「静」と「動」の切り替えの速さが、順位を劇的に入れ替えるのです。
日本の今後を担う期待の選手紹介

2026年のミラノコルティナオリンピックには惜しくも出場することはかないませんでしたが、日本における山岳スキーの歴史はまだ浅いものの、近年、世界レベルのスピードを持つ選手が続々と誕生しています。次世代のスター候補たちを紹介します。
男子注目選手
島 徳太郎
圧倒的な身体能力と、トレイルランニングで培った登坂力が武器の若きエース候補。SNSでは「とっとこ」の愛称で親しまれ、その親しみやすいキャラクターと競技中のストイックな姿のギャップが魅力。爆発的なスピードで世界の強豪を追います。
萩原 悠己
緻密なトレーニングと、無駄のないトランジション(道具の切り替え)技術に定評がある選手。冷静なレース運びで、混戦となるスプリント種目でも確実に上位を狙える実力を持っています。日本男子チームの安定感を支える存在です。
女子注目選手
上田 絢加
スカイランニングの世界でも名を馳せる、日本女子を代表するアスリート。垂直方向への移動能力が極めて高く、急勾配になればなるほど彼女の真価が発揮されます。その明るいキャラクターで、日本におけるSKIMOの普及にも大きく貢献しています。
田中 友理恵
バイアスロン出身という異色の経歴を持ち、スキーの滑走能力と持久力は折り紙付きです。雪上での高いハンドリング技術を活かし、下りセクションで一気に順位を上げる アグレッシブなスタイルに注目です。
臼井 夏海
粘り強い走りと、大舞台でも動じないメンタルを併せ持つジャンパー。常に自己ベストを更新し続ける成長曲線を描いており、今大会での大化けが期待される「シンデレラガール」候補の一人です。
滝澤 空良 選手
若手ながら国際大会での経験も積み始めている期待の星。持ち前の軽快なフットワークで、複雑なコースレイアウトも軽やかに攻略します。次世代のリーダーとしての呼び声も高く、そのフレッシュな走りに期待が集まります。
山岳スキーで立ちはだかるアルプスの壁

山岳スキーは、伝統的にアルプス山脈を抱える中欧・西欧諸国が圧倒的な強さを誇ります。今後の冬季五輪で日本選手が表彰台を狙う上で、常に壁となるライバル国を紹介します。
イタリア
今回のホスト国であるイタリアは、SKIMOの「心臓部」とも言える国です。軍隊の山岳部隊出身のプロ選手も多く、技術、体力、そして何より競技への情熱が桁違いです。地元の熱狂的な応援を背に受けるイタリア勢を止めるのは、至難の業と言えるでしょう。
フランス・スイス
モンブランなどの名峰を抱えるこの地域では、山岳スキーは「生活の一部」です。幼少期からスキーを履いて山を登り降りしている彼らは、不整地での滑走技術が極めて高く、特にトリッキーなコースコンディションで強さを発揮します。
スペイン
伝説的な山岳アスリートを輩出し続けてきたスペイン。彼らは特に「登り」のスピードにおいて世界を圧倒しており、スプリント種目では驚異的な回転数で坂を駆け上がります。
SKIMOを10倍楽しむ3つのポイント

初めて山岳スキーを観戦する方のために、これだけは押さえておきたい「熱狂のポイント」を3点に絞りました。
① トランジション(切り替え)の芸術
選手が登りから下りへ、あるいは下りから担ぎへとモードを変える「トランジションエリア」は、まさに戦場です。シールを剥がす、スキーを畳む、ザックに差し込む。一連の動作に淀みがなく、まるで精密機械のような速さで行われるこのプロセスは、モータースポーツのピット作業にも匹敵する見応えがあります。ここで数秒を削るために、選手たちは年間何千回もの反復練習を積み重ねています。
② 心拍数MAXのクライム
スプリント種目は、わずか3分程度の短いレースですが、その間の選手たちの心拍数は常に「限界値」に達しています。ゴール直後、多くの選手がその場に倒れ込むほどの全力疾走。冷たく薄い空気の中で、肺が焼けるような苦しさに耐え、一歩でも前へスキーを押し出す執念。その「生」のエネルギーが、画面越しにも伝わってくるはずです。
③ 絶景の中のダウンヒル
登りの苦しさを抜けた先に待っているのは、ハイスピードなダウンヒルです。しかし、アルペンスキーのように整備されたピステ(ゲレンデ)ばかりではありません。山岳地帯のありのままの雪面、時には氷のように硬い斜面や狭い林間を、幅の狭い超軽量スキーで駆け抜けます。この「制御不能」に近いスピード感と、それをコントロールする選手の技術こそ、SKIMOの真骨頂です。
まとめ:雪山の新たな歴史がここから始まる
2026年、ミラノ・コルティナの空の下で、山岳スキーは「五輪競技」としての第一歩を踏み出します。それは、冬のスポーツが「山そのもの」へと回帰していく象徴的な出来事でもあります。
惜しくも日本代表は出場することは叶いませんでしたが、今後の名物となることは間違いない競技の一つです。
初採用というこの歴史的な瞬間が、どれほど多くの人々の冒険心を呼び起こすのか。新種目ならではの混沌とした熱気と、次世代スターたちが雪嶺で見せる躍動を、ぜひ見届けてください。



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