2026年、イタリアのミラノおよびコルティナ・ダンペッツォで開催される冬季オリンピック。日本のアイスホッケー界において、今回その氷の上に立つのは、4大会連続5回目の出場を果たす女子日本代表「スマイルジャパン」です。
北京五輪での史上初となる決勝トーナメント進出、そして過去最高タイの6位という結果を経て、彼女たちは今、「世界のベスト4」、そしてその先にある「メダル」を現実の目標として捉えています。本記事では、ミラノ五輪に挑む精鋭たちと、立ちはだかる世界の壁、そして大会を彩る見どころを網羅的に解説します。
アイスホッケーの魅力は?

アイスホッケーは「氷上の格闘技」と呼ばれ、冬のオリンピックでも最もエキサイティングな競技の一つです。観戦前にこれだけ知っておけば、試合の流れが手に取るようにわかります。
アイスホッケーの基本のルール
アイスホッケーは、ゴールを守るキーパー1人 + 攻撃と守備を担う5人の1チーム「6人」で戦います。
2026年ミラノコルティナオリンピックでは、そこに交代の選手を入れて、23人のチームでメダルを目指すことになります。
試合時間は、 「20分 × 3ピリオド」の合計60分間で行われます。ピリオドの間には15分の休憩があります。
アイスホッケーは、体力の消耗が激しいため、選手は45秒〜1分程度で次々と入れ替わります。
「オン・ザ・フライ」と呼ばれる、交代方法を採用しており、試合中にプレーを止めずに交代するのはアイスホッケーならではの光景です。
アイスホッケーは、サッカーと同じで得点の取り合いをする競技であり、直径約7.6cmの硬質ゴム製の円盤(パック)をゴールに入れることで得点が加算されます。
また、パックの最高速度は時速150kmを超えることもあります。
初心者が注目すべき「2つのポイント」
- オフサイド
パックよりも先に相手陣地(ブルーラインの内側)に選手が入ってはいけないルール。
サッカーと似ていますが、ラインを基準にするので、青いライン付近の攻防に注目です。 - ペナルティ(反則)
危険なプレーをした選手は、2分間(またはそれ以上)退場させられます。
その間、そのチームは人数が少ない状態で戦わなければならず、試合が大きく動く最大のチャンスとなります。
スマイルジャパンを牽引する5人の核心選手

アイスホッケーは「氷上の格闘技」と呼ばれる激しいスポーツですが、それ以上に緻密な戦術と個人の役割遂行が勝敗を分けます。ミラノの地で鍵を握る5人の選手を紹介します。
① 守護神の矜持:増原 海夕(GK)
アイスホッケーにおいて、ゴールキーパーは「チームの半分」と言われるほど重要なポジションです。増原海夕選手は、今や日本の絶対的な守護神としてその地位を確立しています。
彼女の持ち味は、至近距離からのシュートに対する驚異的な反応速度と、試合展開を冷静に見極める判断力です。強豪国との対戦では、被シュート数が50本を超えることも珍しくありません。
そんな猛攻の中で、彼女がいかに「ビッグセーブ」を連発し、チームに勇気を与えられるか。日本の勝利は、彼女のミットとパッドにかかっています。
② 不動のリーダー:細山田 茜(DF)
守備陣を統率し、チーム全体の精神的支柱となるのが細山田茜選手です。ベテランとしての経験値は計り知れず、相手の攻撃の芽を摘むポジショニングの妙は世界レベルです。
また、彼女の役割は守備に留まりません。パワープレー(相手の反則による数的優位)の際には、ブルーライン付近から放たれる正確なパスやシュートでチャンスを演出します。若手が増えたチームにおいて、彼女の冷静な声掛けと背中で見せるリーダーシップは、苦しい時間帯こそ真価を発揮します。
③ 攻守のダイナモ:志賀 葵(DF)
現代アイスホッケーにおける「動けるDF」の象徴が志賀葵選手です。高いスケーティング技術を持ち、自陣での守備から一転して攻撃参加する際のスプリントは、相手にとって大きな脅威となります。 彼女の存在は、日本の戦術である「堅守速攻」の起点です。守りから攻めへの切り替え(トランジション)の速さを支え、時には自らゴール前まで進出して得点に絡む。妹の紅音選手との連携も含め、彼女がリンクにいる時間は、日本に常にチャンスの予感をもたらします。
④ 世界が恐れる決定力:床 秦留可(FW)
日本の得点源として、世界中のスカウトから注目を集めるのが床秦留可選手です。海外リーグでのプレー経験を通じて培った「当たり負けしない強さ」と、一瞬の隙を突くシュートセンスは日本代表の中でも随一です。
スマイルジャパンが強豪に競り勝つためには、数少ないチャンスを確実に決めきる必要があります。床選手は、まさにその「ワンチャンス」をゴールに変えることができる特別な選手です。
彼女のスティックから放たれるシュートが、日本の歴史を塗り替える一撃になるはずです。
⑤ 氷上のスピードスター:志賀 紅音(FW)
チームに勢いをもたらす爆発的なスピードを持つのが志賀紅音選手です。一度スピードに乗れば、世界のトップディフェンダーでも彼女を止めるのは困難です。
フォアチェック(前線からのプレッシャー)においてもその速さは武器となり、相手のミスを誘発してショートハンド(数的不利)からでも得点を狙える能力を持っています。
若くして経験を積み、ミラノでは選手として全盛期を迎える彼女が、どれだけ相手陣内をかき乱せるかが日本の得点力増強の鍵となります。
世界の壁!女子アイスホッケー強豪3カ国

オリンピックの舞台でメダルを争うためには、避けては通れない「高い壁」が存在します。現在の女子アイスホッケー界を支配する3つの強国を紹介します。
① カナダ:絶対王者のプライド
アイスホッケーを国技とするカナダは、女子においても常に世界の中心と言われています。技術、パワー、戦術、そして層の厚さ、すべてにおいて欠点がありません。
カナダのプレースタイルは、強烈なフィジカルコンタクトと、極めて精度の高いスキルを融合させたものです。第1セットから第4セットまで、どの選手が出場してもトップレベルのパフォーマンスを維持できるのが最大の強みです。
日本にとっては、彼女たちのプレッシャーをいかに回避し、自分たちのペースに持ち込めるかが試されます。
② アメリカ:高速の攻撃軍団
カナダと双璧をなすのがアメリカです。アメリカの強みは、伝統的にその「スピード」と「創造性」にあります。個々のスケーティング能力が非常に高く、リンクを広く使ったパスワークは芸術的ですらあります。
近年のアメリカ代表は、よりシステマチックなホッケーを展開しており、守備から攻撃への転換の速さは世界一と言っても過言ではありません。
スマイルジャパンにとっては、アメリカの高速パス回しに翻弄されず、中央の危険なエリアをどれだけ固められるかが勝負の分かれ目となります。
③ フィンランド:欧州の鉄壁
北米2強を追う一番手であり、日本にとって最大のライバルとも言えるのがフィンランドです。フィンランドのホッケーは非常に組織的で、「負けないホッケー」を展開します。
特に守備の意識が非常に高く、ゴールキーパーのレベルも常に世界トップクラスです。日本がメダルを獲得するためには、この「欧州の壁」を突破しなければなりません。
過去の対戦でも接戦を演じてきた相手だけに、ミラノ五輪でもグループリーグや決勝トーナメントでの激突が予想される、最も注目すべき対戦相手です。
2026ミラノ五輪・ここが注目の「3つの見どころ」

今大会の女子アイスホッケーをより深く楽しむための、重要なチェックポイントを3つ挙げます。
注目ポイント1:スマイルジャパンの「ハイブリッド・スタイル」
日本代表は、伝統的に「速さと組織力」で戦ってきました。しかし、ミラノに向けてはそこに「個の強さ」が加わろうとしています。
床選手や志賀姉妹など、海外のトップリーグ(PWHLや欧州リーグ)でプレーする選手が増えたことで、フィジカル面での不利を技術と判断力で補う「ハイブリッドな戦い方」が可能になりました。
世界トップレベルのコンタクトに耐えつつ、日本らしい緻密なパスホッケーがどこまで進化しているかに注目です。
注目ポイント2:パワープレーとペナルティキルの攻防
アイスホッケーの勝敗を大きく左右するのが、反則による人数差が生じた時の攻防です。特に日本のような格上が相手の場合、5対5の状況で得点を奪うのは容易ではありません。
それゆえ、数的優位の「パワープレー(PP)」でいかに得点を奪い、逆に数的不利の「ペナルティキル(PK)」でいかに失点を防ぐかが重要です。
細山田選手を軸としたPPのフォーメーションや、増原選手を中心とした必死のPKは、試合の緊張感が最も高まる瞬間です。
注目ポイント3:世代交代とチームの化学反応
2014年のソチ五輪から続くスマイルジャパンの快進撃を支えてきたベテラン勢と、U18などの世代から上がってきた若手選手たちの融合が完成形を迎えるのがこのミラノ五輪です。
経験豊かな選手の「勝負どころを知るプレー」と、若手選手の「恐れを知らない勢い」がリンク上でどう噛み合うのか。
大会期間中にも成長を続けるチームの「化学反応」は、観る者の心を打つドラマを生むことでしょう。
【必見】ミラノ五輪・予選リーグ試合日程
スマイルジャパンが決勝トーナメント進出、そしてメダル獲得へ向けて突き進む予選リーグのスケジュールです。
| 日程 | 対戦相手 | 試合のポイント |
|---|---|---|
| 2月6日(金) | フランス 🇫🇷 | 初戦の緊張感を打ち破り、日本のスピードで圧倒したい重要な開幕戦。 |
| 2月7日(土) | ドイツ 🇩🇪 | フィジカルの強い相手。連戦となるため、チームの総力が試されます。 |
| 2月9日(月) | イタリア 🇮🇹 | 開催国との対戦。完全アウェーの雰囲気の中、冷静なプレーが求められます。 |
| 2月10日(火) | スウェーデン 🇸🇪 | 予選最大の山場。過去何度も接戦を繰り広げてきた宿敵との大一番です。 |
特に2月10日のスウェーデン戦は、決勝トーナメントでの有利な組み合わせを勝ち取るための大決戦になる可能性が高いです。
これまでの五輪や世界選手権でも激闘を演じてきた相手に対し、日本がどのような戦術で挑むのかが最大の見どころです。
まとめ
アイスホッケー女子日本代表「スマイルジャパン」は、単なる「出場」を目指す段階を終え、今は「勝つこと」を求められるチームへと変貌を遂げました。ミラノ・コルティナ五輪の舞台は、彼女たちが長年積み上げてきた努力の集大成を見せる場所です。
厳しい戦いになることは間違いありません。カナダやアメリカといった巨大な壁、そしてフィンランドのような狡猾な強敵が待ち構えています。しかし、増原選手のセーブ、細山田選手の冷静な守備、志賀葵選手の躍動、床選手のゴール、そして志賀紅音選手のスピードが一つになった時、日本のアイスホッケー界に新しい歴史が刻まれるはずです。
リンクの上に輝く彼女たちの「笑顔(スマイル)」が、最後には勝利の喜びで満たされることを信じて。2026年、イタリアの氷上で繰り広げられる熱き戦いから、目が離せません。




コメント