2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪において、フリースタイルスキーは全15カテゴリーが実施されます。かつては「雪上のサーカス」と呼ばれたこの競技も、今や極限の身体能力と緻密な物理計算、そして圧倒的な個性がぶつかり合う、五輪で最もエキサイティングなスポーツの一つへと進化を遂げました。
本稿では、一般のファンからコアなスキーヤーまでが納得できるよう、各種目のルール、採点の裏側、そして「プロの滑りのどこが凄いのか」を種目別に解説していきます。
フリースタイル:モーグル (Moguls)
まずはモーグルです。
2026年ミラノコルティナオリンピックでは、男子モーグル、女子モーグルと新たに男子デュアルモーグル、女子デュアルモーグルが追加されました。
モーグルは、フリースタイルスキーの中で最も歴史が古く、日本でも上村愛子氏や堀島行真選手の活躍により、絶大な人気を誇る種目でもあります。
モーグルのルールと採点構造
モーグルの採点は「ターン(50点)」「エア(25点)」「スピード(25点)」の100点満点で構成されています。
- ターン→滑り方の綺麗さ
- エア→ジャンプ台での技の難易度や綺麗さ
- スピード→基準点通過までの速度
ターンは最も配点が高い基準であり、スキー板の先端からテールまでを使い、コブの裏側を正確に捉えながら、上半身が全く揺れない「静と動」のコントラストの安定性で採点されます。
次にエアと呼ばれる基準です。これはコース内に設置された2つのジャンプ台で技を披露します。回転数だけでなく、空中での「軸の安定性」や「グラブ(板を掴む動作)」の長さが重要となります。
最後はスピードです。コースごとに設定された「ペースタイム」を基準に算出されます。速ければ速いほど加点されますが、速すぎてターンが乱れればターン点で大きな減点を喫するという、極限のジレンマがこの競技の醍醐味といえます。
これらの3つの要素から点数が決められています。
2026年注目の新種目:デュアルモーグルの衝撃
2026年大会から正式採用された「デュアルモーグル」は、2人の選手が隣り合わせで同時に滑走するトーナメント方式です。
従来のシングルモーグルが「自分との戦い」であるのに対し、デュアルは「相手との駆け引き」が重要になります。先にゴールした選手にはスピード点で大きなアドバンテージが与えられるため、リスクを承知で加速するスリル満点のバトルが展開されます。
モーグルはどこを注目してみたらいいの?
ジャンプの技に目が行きがちですが、今年のオリンピックでは滑り方に注目してみてください。
トップ選手の滑りを見ると、膝がまるでおもちゃのバネのようにしなやかに動き、頭の位置が一定の高さから動かないことに気づくはずです。
これは「吸収」と呼ばれる技術で、時速30km以上の猛スピードで高さ30cm以上のコブを処理しながら、次のコブへのラインを瞬時に判断する超人的な処理能力の証です。
この綺麗さがターンの点数になります。
フリースタイルスキー:エアリアル (Aerials)
次に紹介するフリースタイルはエアリアルです。
2026年ミラノコルティナオリンピックでは、男子エアリアル、女子エアリアル、混合団体エアリアルが開催されます。
モーグルは滑りとジャンプを見る「地上戦」とすれば、エアリアルは「空飛ぶスキーヤー」による、地上15メートル(ビル5階相当)での「空中戦」と言えます。
エアリアルのルールと採点構造
エアリアルは、時速60km以上の助走から、ほぼ垂直に近いキッカー(ジャンプ台)を飛び出します。採点基準は、「テイクオフとフォーム」「滞空中技」「着地」の3つが大きな基準となります。
- テイクオフとフォーム
- 空中動作
- 着地
エアリアルの最初の基準となるのが、テイクオフとフォームです。飛び出しの勢いと、空中での姿勢の美しさです。
最も配点の高い基準が空中動作になります。3回転〜5回転の宙返りの中に、どれだけ「ひねり」を加えられるか。現在の男子トップ層は「5回ひねり」を組み込む領域に達しています。
最後の基準になるのが着地です。最も過酷なセクションです。急角度の着地斜面に対し、スキー板を平行に、かつ上体を起こした状態で「ピタッ」と着地しなければなりません。15mの高さから落ちると考えると冷や汗ものと言えます。
これらの要素が絡み合ったのがエアリアルという競技になります。
いかに垂直と落下の恐怖を押さえて技を披露するかが注目です。
混合団体エアリアルの戦略
男子2名・女子1名(またはその逆)で構成される団体戦は、個人の能力だけでなく「確実性」が問われます。一人でも着地で転倒すればメダル争いから脱落するため、攻めるか、確実に決めるかのチーム戦略が勝敗を分けます。
エアリアルはどこを注目してみたらいいの?
エアリアルは垂直落下している競技であり、見ているだけでも恐怖を感じる種目でもあります。
技術が高い選手になると空中で何回転しているか分からなくなります。しかし、注目すべきは「腕の動き」です。
ひねりを加える際、選手は腕を体に密着させて回転速度を上げ、回転を止めるときには腕を大きく広げてブレーキをかけます。この緻密なコントロールこそが、エアリアルの最も重要な部分といえます。
スキークロス (Ski Cross)
次に紹介するのはスキークロスです。
スキークロスは「雪上の格闘技」とも呼ばれることがあり、採点ではなく「着順」で勝敗が決まる極めて分かりやすい種目です。男子スキークロス、女子スキークロスの2種目があります。
スキークロスのルールとコース特性
スキークロスはレース形式で開催されます。1レース4人が同時にスタートしコースにはバンク、ウェーブ、ジャンプなどの障害物が設置されています。
また、意図的な進路妨害や押し出しは反則となりますが、激しいデッドヒートの中での接触は日常茶飯事です。
スキークロスの勝負を分けるポイント
スキークロスでは、ホールショットとスリップストリームが重要と言われています。
- ホールショット(先行)
最初のコーナーまでにトップに立つことが圧倒的に有利です。そのため、ゲートが開いた瞬間のリアクション速度が勝敗の5割を決めると言っても過言ではありません。 - スリップストリーム
直線区間では、前の選手のすぐ後ろにつくことで空気抵抗を減らし、一気に追い抜く「スリングショット」が見どころです。
コースの所々にジャンプ台やコブがあり、コースの見極めも大切な要素といえます。
スキークロスの観戦のポイント
単に速いだけでなく、周囲の3人の位置を背中で感じ取る「空間把握能力」と、一瞬の隙を突いてインコースに飛び込む「胆力」が求められます。
アルペンスキー出身の選手が多く、基礎体力の高さも特筆すべき点です。
また、大幅に差があいていたとしても、ソチオリンピックでもあったように、最後の最後で逆転ということもあるため、最後まで気が抜けない競技の一つです。
ハーフパイプ (Halfpipe)
巨大な半円筒形の溝を往復しながら、左右の壁で5〜6回のジャンプで競いあう競技の一つです。
2026年ミラノコルティナオリンピックでは男子ハーフパイプ、女子ハーフパイプが開催されます。
ハーフパイプの採点の基準:オーバーオール・インプレッション
ハーフパイプの採点は、一つのミスで決まるのではなく、ラン全体の「流れ」が重視されます。
祭典の基準になるのが、振幅(高さ)、難易度、スタイルになります。
振幅(高さ)は、リップ(縁)からどれだけ高く飛び出せるか。トップ選手は4〜6メートル以上の高さを維持します。
次に重要になるのが技の難易度です。回転の多さだけでなく、進行方向とは逆向きに滑る「スイッチ」での飛び出しや着地が高い評価を得ます。
最後にポイントとなるのがスタイルと呼ばれる項目です。どのタイミングで板のどこを掴むか(グラブ)。これによって選手の「カッコよさ」が決まります。
ハーフパイプの観戦の隠れたポイント:ボトムの滑り
ジャンプだけに目が行きがちですが、実は「ボトム(底)」の滑りこそが重要です。壁を駆け上がる際に、いかに板を走らせて加速(パンピング)させているかに注目してください。
これができないと、後半に向けてジャンプの高さが落ちてしまいます。
スロープスタイル (Slopestyle)
スロープスタイルは、階段の平手すりのような「レール」や「ボックス」といったジブセクションと、巨大なキッカーが並ぶコースを滑ります。
2026年ミラノコルティナ五輪では、男子スロープスタイル、女子スロープスタイルの種目が開催されています。
スロープスタイルは創造性の戦い
スロープスタイルは、スノボーやオリンピックのスケボーのように決まった正解がない競技の一つです。いかにカッコよく決めるかが勝負のポイントとなります。
- ジブセクション
滑り出しの向き、レール上での回転、降りる際のバリエーション。 - ジャンプセクション
3連続の巨大ジャンプ。縦回転と横回転を組み合わせた複雑な動き。
スロープスタイルの観戦の隠れたポイント:スイッチ
「スイッチ(後ろ向き)」でレールに乗り、そのまま空中で3回転してまた後ろ向きで着地するといった、前後左右の感覚を完全に失わない卓越したバランス感覚が要求されます。
また、コース全体を一つの物語のように構成する「クリエイティビティ」が勝敗を分けます。
ビッグエア (Big Air)
ビックエアはこれまでの競技とは違い、1回の超巨大ジャンプにすべてを懸ける、最もシンプルな種目です。2026年ミラノコルティナ五輪では、男子ビッグエア、女子ビッグエアの種目が開催されます。
ビッグエアは究極の一発
選手は約40メートル近い助走をつけ、高さ3メートル以上の巨大キッカーから飛び出します。
対空時間2〜3秒の間にいかに綺麗でダイナミックな技を披露できるかが順位を左右します。
現在、男子では1980度(5回転半)や2160度(6回転)という驚異的な回転が繰り出されます。
ビックエアの勝負の分かれ目:戦略的な3本
ビックエアの見どころといえばジャンプに尽きるのですが、ルールに特徴があります。
3本ジャンプを行いその中から、「異なる回転方向」の2本の合計点で競います。右回転が得意でも、左回転も高難度で決めなければ勝てないというルールが、選手の総合力を試します。
まとめ:2026年、日本代表への期待
フリースタイルスキーは、常に「昨日まで誰もできなかったこと」を誰かが成し遂げることで進化してきました。ルールを理解することは、その「進化の瞬間」に立ち会うためのチケットです。
ミラノ・コルティナ五輪の会場では、今回紹介した全15カテゴリーにおいて、人類の限界に挑む戦士たちのドラマが繰り広げられます。日本代表「TEAM JAPAN」の選手たちが、この緻密な採点の世界でいかに自分たちの「個性」と「魂」を表現し、世界を驚かせてくれるのか。
テレビの前で、あるいは現地で。ルールという物差しを持ちつつ、それを超えていく感動を、ぜひその目に焼き付けてください。
がんばれ、TEAM JAPAN!ミラノの空に、歓喜の舞を。




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