2025年10月17日、消費者庁は株式会社NOVAランゲージカンパニーに対し、景品表示法違反(有利誤認表示)による措置命令を出しました。
「駅前留学」のキャッチフレーズで知られるNOVAですが、実は2007年に439億円もの負債を抱えて経営破綻した過去があります。
奇跡の復活を遂げたはずのNOVAで、再び消費者を欺く行為が行われていたのです。
今回の違反内容:架空の「通常価格」で消費者を誤認
何が問題だったのか
NOVAは2024年9月から2025年4月までの約8ヶ月間、自社ウェブサイトで以下のような表示を継続していました。
一般向けコース:
「入会金 一般 20,000円(税込22,000円)→0円」
子供向けコース(NOVAバイリンガルKIDS):
「入会金 KIDS 10,000円(税込11,000円)→0円」
一見、お得なキャンペーンに見えますが、実態は異なりました。
実態:存在しない「通常価格」
消費者庁の調査により、これらの「通常入会金」は最近相当期間にわたって実際に徴収した実績がない架空の価格だったことが判明しました。
つまり・・・
- 常に入会金は無料または割引価格だった
- 「通常22,000円が今だけ0円」という表示は虚偽
- 比較対象となる「通常価格」自体が存在しなかった
これは景品表示法第5条第2号(有利誤認表示)に違反します。
消費者に「今だけお得」と誤認させ、不当に顧客を誘引したと判断されたのです。
NOVAの歴史:栄光から転落、そして復活
今回の違反を理解するには、NOVAの波乱に満ちた歴史を知る必要があります。
栄光の時代(1981年〜2006年)
NOVAは1981年に創業し、「駅前留学」をキャッチフレーズに急成長しました。
NOVAうさぎを起用したテレビCMを頻繁に放映し、駅前の好立地に教室を開校して校舎網を拡大しました。
最盛期には
- 全国に約600校を展開
- 受講生数は2006年3月末で47万5,000人
- 英会話業界の約6割のシェアを握る業界最大手
といった偉業も達成しています。
そのため、英会話といったら誰でも知っているスクールとして有名でした。
転落の始まり:解約トラブルの多発(2006年〜2007年)
しかし、華やかな成長の裏で深刻な問題が進行していました。
問題1:不当な解約金返金システム
NOVAは授業料を前払い式で徴収し、ポイント制を採用していました。
まとめて購入するほど1回のレッスン代がお得になるため、大量のポイントを購入する生徒が多くいました。
ところが、途中で解約した場合、ポイントの計算が生徒とNOVAで異なり、予定していた返金額と実際の返金額が大きく異なる状況が発生しました。
2007年2月、経済産業省と東京都が特定商取引法違反と東京都消費生活条例違反の疑いで立ち入り検査を実施。
訴訟の結果、NOVAは特定商取引法違反とされ、2007年4月に「ポイントは購入時の単価で返金する」ことが決定されました。
解約金は16億円にものぼり、2007年6月には新規の長期契約の受付禁止が決まり、業務停止命令が出されました。
問題2:外国人講師への給料未払い
解約金で16億円もの額を支払ったNOVAにはお金がなく、外国人講師への給料未払い問題も発生しました。
これがさらにNOVAのイメージを悪化させました。
経営破綻(2007年10月26日)
業務停止命令により信用失墜は決定的となり、業績の改善も望めないことから、2007年10月26日に会社更生手続きの開始を申し立て経営破綻しました。
- 負債総額439億円
- 全国に600校近くあった教室は全て一時閉鎖
- 多くの受講生が授業料を返金されないまま泣き寝入り
業界への影響
NOVAの破綻は市場を一気に冷やし、2006年の外国語会話教室の受講生は約956万人でしたが、2010年は約400万人にまで急減しました。
英会話業界全体に深刻なダメージを与えたのです。
奇跡の復活と体制改革
新生NOVA誕生
現在のNOVAは別会社が運営しており、新しい経営者を迎えて旧NOVAの問題点を改善しています。
破綻当時に入社9年目だった隈井恭子氏が代表取締役に就任し、再建を主導しました。
主な改革内容
1. 前払い制から月謝制へ転換
過去の最大の問題だった前払い制を廃止し、透明性のある月謝制を導入しました。
- 「1万円ポッキリ留学」など定額制プランを導入
- 1ヶ月ごとに続けるかどうかを選択可能
- 高額な前払いによる返金トラブルのリスクを排除
2. 顧客満足度重視への転換
以前は「授業プランを売ること」が目的化していましたが、入会後のフォロー体制を強化し、継続して通ってもらうための努力を重視するようになりました。
3. 多角化戦略
- オンライン英会話「お茶の間留学」の充実
- 子供向け「NOVAバイリンガルKIDS」の展開
- ビジネス英語など専門コースの拡充
これらの改革により、新生NOVAは生徒数を順調に伸ばし、業績を回復させてきました。
なぜ再び違反が起きたのか
復活を遂げたNOVAが、なぜ再び消費者を欺く行為に走ったのでしょうか。
考えられる要因
1. 入会金ゼロキャンペーンの常態化
多くの英会話教室が入会金無料キャンペーンを実施する中、NOVAも競争に対応するため入会金を実質無料化していたと考えられます。
しかし、「お得感」を演出するために架空の通常価格を設定してしまいました。
2. 短期的な顧客獲得圧力
8ヶ月間という長期にわたる継続的な表示から、組織的な販売戦略だった可能性があります。
新規顧客獲得のプレッシャーが、コンプライアンス意識を低下させた可能性があります。
3. 過去の教訓の風化
破綻から約18年が経過し、当時を知る社員が減少する中で、過去の失敗から学んだ教訓が社内で十分に共有されていなかった可能性があります。
措置命令の内容と今後
消費者庁はNOVAに対し、以下を命じました。
- 周知徹底義務
- 違反事実を一般消費者に周知すること
- 周知方法は事前に消費者庁長官の承認が必要
- 再発防止策の実施
- 再発防止措置を講じること
- 役員・従業員に周知徹底すること
- 同様の表示の禁止
- 今後、同様の表示を行わないこと
- 報告義務
- 実施した措置を文書で消費者庁長官に報告すること
消費者が学ぶべき教訓
「二重価格表示」に注意
今回のNOVAの事例は、「二重価格表示」と呼ばれる手法の問題点を示しています。
NOVA以外にもこう言ったパターンが行われていることがあります。
よくある違法パターンとして以下の3つがあげられます。
- 「定価10,000円→今だけ3,000円」
- 実際には一度も10,000円で販売したことがない
- 「通常価格」が架空の価格設定
このような表示は、実績のない価格を比較対象にしているため、景品表示法違反となります。
見極めるポイント
消費者として注意すべき点。
- 「通常価格」の実態を確認
- 「通常」と書かれていても、実際にその価格で販売されていたか疑問を持つ
- 他社の同様のサービスと比較する
- 「期間限定」が常態化していないか
- 常に「キャンペーン中」の場合は要注意
- それが実質的な通常価格の可能性
- 総額で判断する
- 入会金が無料でも、月謝や教材費が高額な場合も
- トータルコストで他社と比較する
- 契約前に確認
- 解約時の条件
- 返金ポリシー
- 追加費用の有無
まとめ:信頼回復の道のりは険しい
NOVAは439億円の負債を抱えて倒産し、多くの受講生を苦しめた過去があります。
新体制で真摯に改革に取り組み、月謝制への転換などで信頼回復を図ってきました。
しかし、今回の景品表示法違反は、その努力に水を差す結果となりました。
しかも今回は単発のミスではなく、8ヶ月間にわたる組織的な表示だったことが問題です。
過去の教訓を活かせなかったことは残念ですが、NOVAには再度の信頼回復に向けて、以下の対応が求められます:
- 徹底した原因究明
- なぜ架空の通常価格を設定したのか
- 社内でどのような意思決定プロセスがあったのか
- 実効性のある再発防止策
- コンプライアンス体制の強化
- 広告・表示のチェック体制の構築
- 過去の失敗を風化させない社員教育
- 消費者への誠実な対応
- 今回の違反について真摯に謝罪
- 透明性のある情報開示
二度の失敗は許されません。NOVAには、今度こそ本当の意味で消費者から信頼される企業になってほしいと思います。
【参考】景品表示法について
景品表示法は、商品やサービスの品質・価格について、実際よりも著しく優良・有利であると消費者に誤認させる表示を禁止しています。
- 第5条第1号(優良誤認):品質や効果について実際より優良と示す表示
- 第5条第2号(有利誤認):価格や取引条件について実際より有利と誤認させる表示
違反した企業には、措置命令(違反の周知、再発防止策、同様行為の禁止)や課徴金納付命令が科されることがあります。
消費者の正しい選択を守るため、私たち一人ひとりが賢い消費者になることが大切です。
この記事は、消費者庁が2025年10月17日に公表した措置命令書および公開情報に基づいて作成しています。
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