アベノマスク裁判が明らかにした政治の「隠蔽の構造」

政治経済

2020年春、新型コロナウイルスのパンデミック下で安倍政権が打ち出した全世帯への布マスク配布事業。

総額543億円という巨費を投じたこの政策は、当時から多くの疑問と批判を集めていました。

そして今、5年にわたる情報公開裁判を通じて、その背後にある深刻な問題が明らかになりつつある。

裁判の発端:「記録がない」という不可解な主張

神戸学院大学の上脇博之教授が情報公開請求を行ったところ、国は驚くべき回答をした。

「メールは容量不足で削除した」
「契約に至る経過の記録は作成していない」

500億円を超える公共事業において、意思決定の記録が存在しないという説明は、常識的に考えて不自然だ。
上脇教授は不開示決定の取り消しを求め、一次・二次の訴訟を提起した。

一次訴訟:隠された価格差

国は当初、契約書の単価を黒塗りにして開示を拒んだ。
しかし2023年2月、大阪地裁は原告の全面勝訴を言い渡す。

開示された価格には衝撃的な格差があった。

出典: Yahoo!ニュース
  • 最高単価:150円/枚
  • 最低単価:62.8円/枚

同じ布マスクでありながら、約2.4倍もの価格差が存在していたのだ。なぜこれほどの差が生まれたのか。

そこには入札なしの随意契約という不透明な契約形態が関係していた可能性が高い。

二次訴訟:崩れ落ちた「文書不存在」の主張

さらに深刻だったのが、文書の存在をめぐる国の対応だった。

国は一貫して「メールや記録は残っていない」と主張し続けた。
しかし裁判所は「500億円規模の事業で記録が一切ないとは考えがたい」と判断。

証拠提出命令により、一部業者からメールや契約書が提出されると、国の主張は完全に矛盾することになった。

2023年6月、大阪地裁は再び原告全面勝訴の判決を下した。
裁判所は国の対応を「違法」と断定し、損害賠償まで認定したのである。

浮かび上がった三つの問題

1. 不透明な随意契約

興和、伊藤忠商事、マツオカコーポレーションの3社との契約は、いずれも随意契約で行われていた。
競争入札を経ずに特定企業が選ばれた経緯は、今も明らかになっていない

2. 意思決定過程の記録欠如

本来、公的機関は意思決定の過程を記録として残す義務がある。
しかし国は「口頭で伝達したため記録がない」と説明。

この説明を裁判所は信用しなかった。

3. 虚偽答弁と情報隠蔽

「メールは存在しない」という国の主張は、業者からの証拠提出によって虚偽であることが判明した。

にもかかわらず、判決後も十分な再調査や追加開示は行われていない。

森友問題との共通点

上脇教授は、この問題を森友学園問題と同じ構造だと指摘している。

  • 公文書の不自然な廃棄
  • 記録が「ない」ことにされる意思決定過程
  • 国会や裁判での不誠実な対応
  • 説明責任の放棄

アベノマスク事業もまた、政治主導による公文書管理の崩壊を象徴する事例となってしまった。

問われているのは「知る権利」

この裁判が示したのは、単なる一つの政策の失敗ではない。
それは民主主義の根幹に関わる問題だ。

国民の税金がどのように使われたのか。
誰がどのような判断をしたのか。
なぜそのような結果になったのか。

これらを知ることは、国民の当然の権利である。
しかし現在の日本では、その権利が組織的に妨げられている

裁判で二度も全面勝訴しながら、いまだにアベノマスク事業の全容は明らかになっていない。
記録は「ない」ことにされ、責任の所在は曖昧なままだ。

私たちは何を学ぶべきか

アベノマスク裁判が教えてくれるのは、権力の監視を怠ってはならないということだ。

一人の研究者が5年間粘り強く闘い続けなければ、価格差も、虚偽答弁も、記録の隠蔽も明るみに出なかった。そして今なお、闘いは終わっていない。

543億円という巨額の税金が投じられた事業について、私たち国民は知る権利を持っている。
その権利を守るためには、声を上げ続けることが必要だ。

布マスク2枚の背後に隠された「説明責任の放棄」と「情報隠蔽の構造」
それは今も、この国の民主主義を蝕み続けている。

タイムラインのタイトル
  • 2020年
    4月
    • 安倍政権が「全世帯に布マスク2枚配布」を決定(総額543億円)
    • 不織布マスクが市中で入手可能になりつつあった
    1. 2020年
      6月
      • 配布が始まるが、異物混入・カビ・サイズ不良などで回収騒ぎ
      • 批判殺到、「アベノマスク」と揶揄される
    2. 2021年
      神戸学院大・上脇博之教授が情報公開請求。
      • 契約経過やメールの開示を求める。
      • 国は「記録は作成していない」「メールは容量不足で削除」と主張
    3. 2022年
      6月頃
      • 上脇教授が「不開示は違法」として一次訴訟を提起(契約単価を争点)
      • さらに二次訴訟も提起(文書破棄問題を争点)
    4. 2023年
      2月28日(一次訴訟判決)
      • 大阪地裁:「単価非開示は違法」→ 原告全面勝訴。
      • 契約単価が開示される:
        • 最高150円/枚
        • 最低62.8円/枚(価格差2.4倍)。
      • 国は控訴せず、判決確定。
    5. 2025
      6月5日(二次訴訟判決)
      • 裁判所:「文書が一切存在しないのは不自然」
      • 証拠提出命令で業者がメールや契約資料を提出、国の主張と矛盾。
      • 国の「記録はない」という答弁は虚偽と断定。
      • 原告全面勝訴 → 国に損害賠償命令。

    参考:本記事は神戸学院大学・上脇博之教授による情報公開裁判とその判決内容に基づいて執筆されています。

    出典元: Yahoo!ニュース

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